SIerの無機質なコードと、エンタメ業界の華やかな色彩の間で

コードにも彩度がある

長年エンジニアとして仕事をしてきたが、振り返れば私の職歴は「彩度」の歴史でもあった気がする。

最初のキャリアはSIerだった。

会議室には男。 設計書を書いているのも男。 サーバールームで作業しているのも男。

見渡す限り男である。

もちろん仕事は面白かった。若かったし、覚えることも山ほどあった。

だが今思い返すと、あの頃の記憶はどこかモノクロだ。

コード。 設計書。 サーバ。 障害対応。

そんな言葉ばかりが頭に浮かぶ。

世界が突然カラーになった

その後、縁があってエンターテインメント業界のWeb部門へ転職した。

そして驚いた。

デザイナーがいる。

しかも女性だ。

営業もいる。

しかも華やかだ。

若かった当時の私は思った。

「天国って実在したんだな」

と。

今ならコンプライアンス担当に怒られそうな感想だが、本当にそう思ったので仕方がない。

毎日スーツ姿のおじさんだけを見ていた人間が、突然カラフルな世界に放り込まれたのだから無理もない。

論理だけでは動かない世界

ただ、面白かったのは見た目の話だけではなかった。

職場の空気そのものが違った。

SIer時代は、とにかく論理が正義だった。

設計が正しいか。

性能要件を満たしているか。

納期に間に合うか。

そんな話ばかりしていた。

一方でエンタメ業界では少し違う。

「こっちの方が楽しそう」

「なんとなくこっちが好き」

「ユーザーはこう感じると思う」

そんな会話が普通に飛び交う。

当時の私は、

「なんとなくって何だよ」

と思っていた。

だが実際には、その”なんとなく”の中にユーザー体験や感性が含まれていた。

エンジニアだけで集まっていると見えない景色が確かにそこにはあった。

今振り返ると、あの経験は意外と今の仕事にも活きている気がする。

システムは仕様だけで動くが、サービスは人間が使う。

当たり前のことを、私はあの職場で学んだのかもしれない。

そして静寂へ

それから年月が流れた。

私は別の縁で今のパートナーと出会い、結婚し、現在はフリーランスとして仕事をしている。

多くの場合、一人で設計し、一人でコードを書き、一人で障害対応する。

誰にも邪魔されない。

会議も少ない。

効率は最高だ。

若い頃の自分なら理想の働き方だったかもしれない。

だが時々、ふと思い出すことがある。

あの頃の賑やかなオフィスを。

デザイナーが騒ぎ、営業が走り回り、企画担当が無茶振りをしていたあの空間を。

当時はうるさいと思っていた。

だが、あれはあれで悪くなかった。

人間は案外単純である

もちろん今さら「あの頃に戻りたい」とは思わない。

若さは戻らないし、徹夜もしたくない。

それに今の私は、静かな部屋でコーラを飲みながらコードを書く生活を気に入っている。

ただ、人間というのは案外単純な生き物だ。

どれだけ技術が好きでも、どれだけコードが好きでも、毎日モニターとおっさんだけを見ているよりは、少し彩りがあった方が人生は楽しい。

そんなことを考えながら、ふと昔の職場を思い出すことがある。

もっとも、今の私には当時ほどのモチベーションはない。

若い頃は「女性が多い職場最高!」などと思っていたが、結婚してみると人間は案外変わる。

いや、正確には変わったのではない。

妻にこの記事を読まれる可能性を考えるようになっただけである。