「日本は天国か?」という問いの、あまりに冷徹な正体
ネットを見ていると、定期的に「日本は天国だ」という話が出てくる。
日本は安全。食事はうまい。電車は時間通りに来る。夜中に一人で歩ける。
逆に、日本は地獄だという人もいる。
給料は上がらない。税金と社会保険料は高い。少子高齢化は止まらない。将来に希望がない。
たぶん、どちらも間違っていない。
そもそも「日本は天国か」という問いには、最初からバグがある。
どこと比較するかで、答えが180度変わるからだ。
日本とアメリカでは、ストレスの向きが違う
昔、大学の社会学の講義で面白い話を聞いた。
日本は殺人率が低い。一方で自殺が社会問題になる。
アメリカは日本より殺人が多い。
その先生は、社会が生み出すストレスの「向き」が違うのではないか、という話をしていた。
アメリカでは外に向かい、日本では内に向かう。
もちろん、そんな単純な話ではないだろう。ただ、妙に納得した記憶がある。
日本では、誰かを殴る前に自分を責める。
「自分が悪いのではないか」
「もっと頑張るべきではないか」
「周囲に迷惑をかけてはいけない」
そうやって自分を追い込む。
逆にアメリカでは、「お前が悪い」と外に向かう文化が日本より強いように見える。
どちらが天国なのだろう。
銃弾が飛んでこない代わりに、空気を読み続ける社会。
空気は読まなくていいが、地域によっては治安を本気で気にしなければならない社会。
結局、自分がどちらのストレスに耐えられるかという話なのかもしれない。
内戦地域から来れば、日本は間違いなく天国だ
YouTubeなどを見ていると、紛争地域や極端に貧しい国から日本に来た人が、「日本は天国だ」と話していることがある。
これは別に日本へのお世辞でも何でもないと思う。
昨日まで銃声が聞こえていた。
明日の食事があるか分からない。
家族が無事かどうかも分からない。
そんな場所から来て、夜中にコンビニへ行けば食べ物が並んでいる。店員に金を払えば普通に買える。途中で武装集団に襲われる心配もない。
そりゃ天国だろう。
私だって同じ立場なら「日本最高」と言う。
ただし、それは地獄の底から日本を見た場合の話である。
比較対象が内戦地域なら、日本は天国だ。
では、比較対象がもっと豊かで、成長していて、若者にチャンスがある国だったらどうだろう。
当然、評価は変わる。
日本人から見れば、普通に「やばい国」でもある
日本に生まれ育った人間が、今の日本を見て「天国だ」と素直に言えるか。
私は少し難しい。
経済は長く停滞し、円の力も弱くなった。海外旅行に行けば、日本人が以前ほど金持ちではないことを嫌でも実感する。
さらに少子高齢化。
社会保障費は増え、支える側は減る。
この先、突然すべてが良くなる材料も、今のところあまり見えない。
治安がいいのは事実だ。
飯もうまい。
インフラも優秀。
しかし、国の将来予測として見ると、かなりやばい。
「でもアフリカの紛争地域より安全ですよ」
と言われても、そりゃそうだろうとしか言えない。
比較対象をそこまで下げれば、大抵の先進国は天国になる。
では北欧は天国なのか
日本がダメだという話になると、今度は北欧が登場する。
幸福度が高い。福祉が充実している。教育も素晴らしい。
日本も北欧を見習え。
この話も何度聞いたか分からない。
しかし、北欧の高福祉は当然ながらタダではない。税負担は重く、高所得者や若い人材が、より税金の安い国へ出ていくという問題もある。
せっかく国が教育に金をかけて優秀な人材を育てても、成功したら国外へ出ていく。
国からすれば、なかなか笑えない話だろう。
余談だが、北欧は自殺率の高さが話題になることもある。
日本の場合は同調圧力や社会の息苦しさが原因ではないか、とよく言われる。一方、北欧では「冬に太陽が出ないから精神に良くない」という話をよく聞く。
どこまで本当なのかは知らない。半分都市伝説のように語られている話でもある。
ただ、幸福度ランキング上位の国でも、人間は普通に病む。
日本では空気にやられ、北欧では太陽が出なくてやられる。
結局、天国というのは外から見たイメージに過ぎないのかもしれない。
天国はどこにもない
結局、「日本は天国か」という問いにあまり意味はないと思っている。
安全だが、息苦しい国もある。
自由だが、自己責任の重い国もある。
福祉は手厚いが、税金が重く、冬には太陽もほとんど出ない国もある。
どこに行っても何かを得て、何かを失う。
だから国選びとは、「天国を探すこと」ではない。
自分はどの地獄なら耐えられるのかを選ぶことなのだと思う。
銃社会は絶対に嫌だ。
高い税金は嫌だ。
同調圧力が嫌だ。
貧富の差が嫌だ。
半年近く暗いのは嫌だ。
そうやって消去していくと、自分にとって比較的マシな国が残る。
それを人は「住みやすい国」と呼ぶ。
たぶん天国なんて、最初からどこにもない。
あるのは、自分にとって地獄度が少し低い場所だけなのだ。