徹夜ができなくなった歳に、徹夜をしてくれるAIが来た
白状すると、徹夜ができなくなった。
若い頃は、平気だった。
障害対応で朝まで戦って、シャワーを浴びて、そのまま定時に出社する。
一晩寝れば、回復した。
いまは、違う。
夜更かしを一回すると、三日引きずる。
深夜2時のコードは、翌朝見ると別人が書いた暗号である。
50代のエンジニアとして、これは認めざるを得ない。
この仕事には、体力商売の側面が、確かにあった。
そして、その資本が目減りしてきた。
今日は、その話を正直に書いてみたい。
落ちたものを、正直に数える
年齢の話をするなら、まず落ちたものを直視するのが礼儀だろう。
徹夜耐性。
前述の通り、ほぼ消滅した。
丸暗記力。
新しいフレームワークのAPIを、昔は使っているうちに全部覚えた。
いまは、覚える端から抜けていく。
連続集中時間。
昔は気づいたら6時間経っていた。
いまは2時間で一度、腰と目が休憩を要求してくる。
このあたりが、正直な棚卸しである。
エンジニアリングが「若い人の仕事」と言われてきた理由は、実際にあるのだ。
長時間の集中、深夜のリリース、障害対応の泊まり込み。
この業界の働き方は、長らく若さを前提に設計されていた。
上がったものも、数えてみる
一方で、上がったものもある。
まず、見立ての速さ。
障害の症状を聞いた瞬間、「怪しい場所」の候補が3つ浮かぶ。
30年分の失敗のデータベースが、頭の中にあるからである。
危険察知。
設計書を読んでいて、「ここは後で燃える」という匂いが分かる。
たいてい、当たる。
そして一番大きいのが、やらないことを決める力である。
若い頃は、全部やろうとした。
いまは、やらなくていいことが見える。
作らなくていい機能、追わなくていい流行、出なくていい会議。
体力が減った分、無駄弾を撃たなくなった。
つまり、キャリアの前半で「体力の資本」が減り、後半で「判断の資本」が積み上がる。
ここまでは、昔からある話である。
そして従来、この交差点に立った技術者には、定番の道が用意されていた。
管理職である。
体力の勝負から降りて、判断の椅子に座る。
私はその道を選ばず、現場に残った。
正直に言えば、体力の下り坂を、経験の上り坂でどこまで相殺できるか、不安はずっとあった。
そこに、AIが来た
この構図を、AIが根本から変えてしまった。
AIは、疲れない。
深夜だろうが休日だろうが、文句ひとつ言わずコードを書き続ける。
つまりAIとは、**全員に配られた「体力無限の若手」**なのである。
これが50代の現場エンジニアにとって、どういう意味を持つか。
体力の価値が、暴落したのである。
徹夜で書く仕事は、AIに任せればいい。
私が深夜2時に書く暗号より、AIが深夜2時に書くコードのほうが、はるかに上等である。
大量のコードを読む仕事も、任せられる。
昔なら気合いで読んだ1万行を、いまはAIに要約させて、怪しい場所だけ自分の目で読む。
私の減り続ける体力資本は、もう主戦力ではない。
代わりに主戦力になったのが、積み上がった判断資本のほうだった。
AIの出力は、大量で、速く、そして時々間違っている。
どれを信じ、どれを疑い、どこを自分の目で確かめるか。
この目利きは、30年分の失敗データベースの、まさに出番なのである。
体力を機械が代替した瞬間、経験の価値が跳ね上がった。
50代の現場エンジニアにとって、これほどの追い風はない。
ただし、骨董品になる道もある
と、いい話で終わりたいところだが、罠もある。
経験が資産であり続けるのは、更新している間だけである。
AIの進歩は速い。
半年前の「AIはここが苦手」という知見は、もう古い。
1年前のベストプラクティスは、すでに時代遅れかもしれない。
経験という地図は、歩き続けている人の手の中でだけ、最新に保たれる。
歩くのをやめた瞬間、地図は骨董品になる。
「昔はこうだった」しか言わなくなったベテランを、私は何人も見てきた。
ああなるかどうかの分かれ目は、たぶん才能ではない。
新しい道具を、まず自分で触るかどうか。
それだけである。
幸い、触ること自体は、体力をあまり使わない。
椅子に座って、AIに話しかければいいのだから。
これほど50代向きの学習環境も、なかなかない。
結論:いまが一番いい
体力維持の努力も、一応している。
歩く。
寝る。
集中は2時間で区切る。
地味な話だが、50代の生産性の土台は、結局このあたりである。
その上で、思うのだ。
30年やってきて、エンジニアとして、いまが一番いい時代である。
若い頃は、体力はあったが、判断力がなかった。
無駄なコードを大量に書き、無駄な徹夜を大量にした。
いまは、判断力があり、体力はAIが貸してくれる。
足りない記憶力も、AIが補ってくれる。
深夜対応はAIに任せて、私は寝る。
そして朝、AIの成果物を、30年分の目で検分する。
体力×若さと、経験×AIの勝負は、どうやら後者に分がありそうである。
もっとも、若手にもAIは配られているので、勝負の土俵自体が変わり続けるのだが。
それはまた、別の記事で考えたい。
とりあえず今夜も、AIに仕事を頼んで、私は先に寝ることにする。