船頭10人の沈没船 —— 中国向けビジネスで学んだ「起業の適正人数」

今日は、昔のことを少し思い出していた。

10年くらい前、日本に住む中国人の知人から、「中国向けのビジネスを一緒にやらないか」と声をかけられたことがある。

当時の中国市場は勢いがあったし、日本の商品やサービスへの関心も強かった。話だけ聞くと、かなり夢があった。

「日本側の感覚を知っている人間」と「中国側のネットワークを持っている人間」が組めば面白い。

今思えば、あの時点では本当に可能性はあったと思う。

ただ、一つだけ致命的な問題があった。

人が増えすぎた。


最初は数人だった。

ところが、 「この人は現地コネクションが強い」 「この人は物流に詳しい」 「この人は販売ルートを持っている」 みたいな感じで、気づけば関係者がどんどん増えていった。

最終的には10人近い。

しかも厄介なのは、単なる作業者ではなく、全員が「初期メンバー」の空気を持っていたことだ。

つまり、全員が“経営側”だった。

これが地獄の始まりだった。


何か決めようとしても決まらない。

価格をどうするか。 誰が責任を持つのか。 利益配分をどうするのか。 日本側主体なのか、中国側主体なのか。

毎回、延々と議論になる。

みんなそれぞれ正しいことを言う。 でも、正しい意見が10個集まると、組織は動かなくなる。

話し合いは増えるのに、前には進まない。

今振り返ると、あの時点で既に「事業」ではなく「会議」が目的化していた。


ある日、打ち合わせをしながら、ふっと冷めた瞬間があった。

「あ、これ無理だな」

って。

誰も最終責任を取る覚悟がない。

いや、正確には、「責任」が10人に薄く分散されすぎていた。

本当に腹を括った人間がいない組織は、判断が異常に遅くなる。

結局、私は途中で降りた。

このまま続けても、時間だけが溶けると思ったからだ。

幸い、まだ設備投資を始める前段階だったので、出資した金は返ってきた。


その後、風の噂で聞いた。

案の定、チームは空中分解したらしい。

一人辞め、また一人辞め、 気づけばほとんど誰もいなくなったという。

そして今、そのビジネスは、最後まで残った一人が小さく回しているらしい。

皮肉な話だと思う。

10人で「大きなことをやろう」と始めたプロジェクトが、 最終的には「一人商店」の形に収束したのだから。


この経験以来、考え方がかなり変わった。

起業初期は、人数なんて少ないほうがいい。

1人。 多くても2人。

それくらいが一番身軽だ。

人数が増えると知恵が増えると思いがちだけど、実際には「調整コスト」が爆発する。

特に立ち上げ期は、正解なんて誰にもわからない。

だったら、まず動けることの方が重要だ。

10人で止まっている船より、 1人で進むボートの方が、よほど遠くまで行けるのだ。