エンドロールに自分の名前が流れた夜

昔、エンタメ系のTV番組の仕事をしていたことがある。

普段の自分の仕事は、完全に裏方だ。 システムが正常に動いていても、ユーザーはそれを意識しない。むしろ、意識されないことが成功みたいな世界である。

でも、その仕事だけは少し違った。

深夜。 番組の最後にエンドロールが流れる。

出演者、ディレクター、制作会社、AD。 その中に、自分の名前が混ざっていた。

「あ、出た」

ただそれだけなのに、妙に嬉しかったのを覚えている。

別に俳優でもないし、有名人でもない。 ただ投票システムを作っていたエンジニアだ。

それでも、全国放送の画面に自分の名前が流れるというのは、なかなか気分がいい。

当時やっていたのは、視聴者のメールを使って、アイドルを目指す女の子に投票するシステムだった。

今みたいにSNSで「いいね」を押す時代ではない。 視聴者は番組にメールを送る。 その熱量が、そのままサーバーに飛んでくる。

放送が始まると、一気にアクセスが跳ねる。

秒間で大量のメール。 サーバーの負荷グラフが急に暴れ始める。 でも、その瞬間が楽しかった。

「耐えろ耐えろ……お、捌いた」

深夜にログを見ながら、そんなことでテンションが上がっていた。

しかも、視聴者はみんな真面目に投票してくれるわけではない。

同じ人が連投する。 明らかにスクリプトっぽい動きもある。 不自然な送信間隔、怪しいIP、機械的なパターン。

ログを掘って、「これは自動だな」と判定して弾く。

別に正義感ではない。 単純に、攻略ゲームみたいで面白かった。

「あー、この回避ロジック考えたな?」

みたいな感じで、見知らぬ誰かと知恵比べをしている感覚だった。

ただ、エンタメ業界はやっぱり独特だった。

女の子の情報を登録するマスターデータを見ると、「素人参加企画」のはずなのに、横にしっかり芸能事務所名が並んでいる。

「あれ?」

と思う。

さらに後から、こんな依頼も来る。

「ランキング、ちょっと調整できるようにできます?」

つまり、順位を手動で変更する機能だ。

最初は笑った。

「いや、不正対策めちゃくちゃ頑張った意味!」

って。

でも、しばらくすると、そういうものなんだと分かってくる。

エンタメは、必ずしも“現実そのまま”を見せる仕事ではない。 最後は「作品」を作っている。

もちろん、エンジニアとしては正論も言う。 ログの整合性も説明するし、不正対策の必要性も話す。

でも最後は、

「じゃあ演出用にこういう仕様で作りますね」

と、普通に実装する。

あの割り切りは、嫌いじゃなかった。

多分、自分の中で「これは金融システムじゃない」という線引きができていたんだと思う。

もちろん、今の時代なら炎上する話もある。 エンタメ業界の闇と言えば闇だ。

でも、サーバーの裏側で大量トラフィックと戦って、番組を支えて、最後に自分の名前がエンドロールに流れる。

あのワクワク感は、普通の業務システム開発ではなかなか味わえなかった。

いつもだと困る。 でも3年に一回くらい、ああいう“お祭りみたいな開発”があってもいい。