なぜ日本のエンジニア界隈はSNSで「殺気立つ」のか?

週末、Xの技術系のやりとりを眺めていた。

技術の話をしているはずなのに、なぜか途中から人格査定が始まっていた。

「そんなことも知らないの?」 「その設計はありえない」 「それを選ぶ時点でレベルが分かる」

最初は技術の話だったはずなのに、気が付くと技術ではなく人間の値踏み大会になっている。

日本のXだけかもしれないが、エンジニア界隈には昔から「マサカリを投げる」という言葉がある。

誰かの発言やコードに対して、「そこ違うよ」「その実装は危ないよ」と技術的な指摘を飛ばすことだ。本来は善意のレビュー文化を表現した言葉だったはずだが、SNSでは時々、本物のマサカリになっている気がする。

しかも投げている本人は「技術的な指摘をしているだけ」と思っているので厄介だ。

受け取る側からすると、レビューというより公開処刑である。

長くIT業界にいるが、この光景は何年経っても消えない。

むしろSNSの発達とともに、どんどん先鋭化している気さえする。

エンジニアは「正しさ」に依存して生きている

考えてみれば当然かもしれない。

我々の仕事は、正解と不正解を探す仕事だ。

コードは動くか動かないか。

設計は保守できるかできないか。

SQLは結果が返るかエラーになるか。

曖昧な答えが許される世界ではない。

だから職業病として、相手の話を聞くと反射的に間違い探しを始める。

会話というより静的解析である。

誤字を見つければ警告を出す。

論理の飛躍を見つければコンパイルエラー扱いする。

そして時々、人間そのものをバグ認定する。

本来はコードに向けるべき能力なのだが、SNSではなぜか人間相手に発動する。

知識は通行手形になる

昔、SNSでこんなやり取りを見た。

ある人が技術書の話題で、

「オライリーって何ですか?」

と質問していた。

すると親切な人が説明するかと思いきや、

「エンジニアでオライリー知らないの?」

という方向に話が進んでいた。

いや、知らないなら教えればいいじゃないか。

オライリーの株主でもないのに。

なぜか一部の人は、知識を共有するためではなく、知識を持っていることを証明するために使う。

知識が武器ではなく勲章になっている。

そして勲章の数を競い始める。

技術カンファレンスに行ったら学びより名刺交換の方が目的になっている人がいるのと、どこか似ている。

日本人は意外と序列が好きである

これはエンジニアに限った話ではない。

日本人は意外と序列が好きだ。

学歴。

会社名。

役職。

年収。

資格。

フォロワー数。

何でもランキング化する。

ただし露骨にやると下品なので、普段は我慢している。

「みんな平等ですよね」

という顔をしながら生きている。

ところがSNSに入ると事情が変わる。

顔も見えない。

会社も関係ない。

人間関係も切れる。

すると抑圧されていた序列欲が解放される。

まるで長年封印されていたモンスターが復活したかのように。

そして技術知識という安全な棍棒を振り回し始める。

相手の設計を殴る。

相手の経歴を殴る。

相手の使用言語を殴る。

気が付けば「Java派 vs Python派」みたいな、どうでもいい宗教戦争が始まる。

たぶん本人たちも途中から何と戦っているのか分かっていない。

余裕がなくなると人は攻撃的になる

もっと単純な理由もある。

みんな疲れている。

納期。

障害対応。

オンコール。

仕様変更。

終わらない会議。

AIに仕事を奪われるかもしれないという漠然とした不安。

エンジニアは意外とストレス職だ。

余裕がある人は、初心者の質問を見ても

「なるほど、そこが分からないのか」

で終わる。

余裕がない人は

「そんなことも知らないのか」

になる。

同じ現象でも反応が変わる。

だから私は最近、攻撃的な投稿を見ると、

「この人、障害対応中かな」

と思うことにしている。

あるいはカルシウム不足かもしれない。

牛乳でも飲んで寝た方がいい。

私も含めて。

結局、エンジニアは問題解決が好きなのである

SNSを見ていると、この業界は殺伐としているように見える。

しかし面白いことに、本当に問題が発生すると皆まともになる。

SNSでマサカリを投げ合っていた人たちも、

「ログあります?」 「再現条件分かりました」 「このパッチ試してください」

と急に協力し始める。

普段は言語戦争をしていても、障害が起きると不思議なくらい一致団結する。

そういえば、昔の2ちゃんねるでも有名な話があった。

2ちゃんねるは、かつて日本最大級だった匿名掲示板サイトだ。海外の人向けに説明するなら、日本版Redditとでも言えば近いかもしれない。

その巨大サイトがサーバーやレスポンス性能の問題で危機に陥ったとき、多くの技術者たちが自発的に集まり、原因調査や改善案の検討に参加したという話がある。

普段は匿名で罵り合っている人たちが、システムの危機になると急に協力し始める。

なんとも不思議な光景だが、実にエンジニアらしいとも思う。

結局のところ、我々は人を攻撃することそのものが好きなのではない。

問題を見ると放っておけないのだ。

バグがあれば直したくなる。

性能が悪ければ改善したくなる。

システムが落ちれば復旧したくなる。

そして残念なことに、その性質が時々、人間相手にも発動してしまう。

だからSNSでマサカリを投げる前に、一度だけ考えてみる。

そのマサカリ、本当に人に向ける必要がありますか?

どうせならコードに向けた方が、みんな幸せになれるかもしれない。