「1人辞めると、なぜ会社は雪崩のように崩れるのか」——組織という“空気”の話
はじめに
不思議なものだが、会社というのは「誰か1人が辞めた」ことをきっかけに、突然、人が連鎖的にいなくなることがある。
しかも、その辞めた本人が特別なエースだったとは限らない。
むしろ、 「え、あの人?」 みたいなケースすらある。
でも、その1人を境に、なぜか空気が変わる。
そして気づけば、転職サイトに登録する人間が増え、面談が入り、半年後には部署の顔ぶれがかなり変わっている。
私自身、若い頃にまさにそれを経験した。
不満は「ゼロ」ではなかった
当時いた開発会社は、人数も少なく、そこまでブラックというわけでもなかった。
人間関係も極端に悪くない。 仕事も普通に回っていた。
ただ、給料は安かった。
みんな、口には出さないが、 「まぁ安いよな」 とは思っていたはずだ。
つまり、不満は存在していた。
ただし、それは“耐えられる範囲”だった。
会社というのは案外こういう、「少しの不満」と「慣れ」で成立している。
1回の“首切り”が空気を変える
ある日、使えないと言われていた社員が会社を去った。
日本の会社なので、アメリカ映画みたいな露骨な「You’re fired」は基本できない。
実際には、退職勧告や減給のような形で、事実上追い出されたらしい。
正直、能力面だけ見れば、会社側の判断も理解できなくはなかった。
だが問題は、その後だった。
「次は誰が対象になるらしい」
そんな噂が流れ始めた瞬間、空気が一気に変わった。
それまで「まぁ給料安いけど仕方ないか」で成立していたバランスが崩れた。
人は面白いもので、 「ここに居続けても大丈夫」 という安心感が消えた瞬間、急に冷静になる。
そして全員、転職サイトを見始める
私もその1人だった。
気づけば転職サイトに登録していた。
すると世の中には、自分が思っていたより条件の良い会社が普通に存在していた。
結果として、私はそこそこ大きな会社へ転職し、年収もかなり上がった。
そして、それは私だけではなかった。
1人辞め、 また1人辞め、 気づけば会社の空気そのものが抜けていった。
たぶん、みんな元々ギリギリだったのだと思う。
そこに「退職勧告」というイベントが入って、 「この待遇でリスクまで負う必要ある?」 と現実に気づいてしまった。
組織は“論理”だけでは動いていない
経営側から見ると、 「利益が厳しいから人を減らす」 というのは合理的判断なのだと思う。
実際、数字だけ見れば正しい場面もある。
ただ、組織というのは機械ではない。
人間関係、安心感、空気、勢い。
そういう曖昧なもので、ギリギリ成立している。
だから、コスト削減のつもりでバランスを崩すと、想定以上に壊れる。
特に、
- もともと給料が低い
- 将来性が見えない
- 不満が蓄積している
こういう状態での“見せしめ”的な退職勧告は危険だ。
表面上は静かでも、水面下ではみんな転職サイトを開いている。
それでも会社は意外と死なない
面白いのは、あれだけ人が辞めても、会社そのものは意外と残ることだ。
もちろん、生産性や利益はかなり落ちたと思う。
現場はボロボロになったはずだ。
それでも会社自体は消滅しない。
逆に言えば、会社というのは「人」を入れ替えながら延命していく生き物なのかもしれない。
ただ、そこにいた“空気”や“文化”は、たぶんもう別物だったと思う。
おわりに
その会社自体には、今でも感謝している。
ITエンジニアとしての基礎体力を鍛えてくれたのは、間違いなくあの環境だった。
小さい会社だったからこそ、何でもやらされた。 サーバーも、コードも、トラブル対応も、全部現場で叩き込まれた。
ただ、やはりお金は大事だ。
どれだけ仲が良くても、 どれだけやりがいがあっても、 待遇が限界を超えると、人は現実を見る。
不思議なもので、あれからもう25年近く経つのに、当時のメンバーとは今でも年に1回くらい集まって飲んでいる。
会社そのものより、 結局、人間関係の方が長く残るのかもしれない。