だから、彼らはフリーランスを辞めた
もう15年くらいフリーランスをやっている。
長く続けていると、昔一緒に仕事をしていたフリーランス仲間が、一人、また一人と会社員になっていくのを見る。
昔は会社員なんて窮屈だと言っていた人たちだ。
自由を求めて飛び出したのに、最後は会社員に戻る。
人生とは、なかなか皮肉である。
一人目は、長くフリーランスを続けていた知人だ。
久しぶりに話を聞くと、会社員になっていた。
理由は体調を崩したから。
フリーランスは休めば収入も止まる。
健康は資産ではなく、売上そのものだ。
おそらく会社員になって収入は下がっただろう。
それでも彼が欲しかったのは、高い報酬ではなく、毎月決まって給料が振り込まれる安心感だったのだと思う。
若い頃は退屈に思えたものが、年齢を重ねると一番価値のあるものになる。
もう一人は、昔少し付き合いのあったフリーランスだ。
金遣いも豪快で、宵越しの金は持たないようなタイプだった。
仕事がなくなっても、「まあ何とかなる」が口癖だった。
去年、偶然再会した。
会社員になっていた。
理由は結婚。
たったそれだけだった。
一人なら「何とかなる」で済む。
でも家族ができると、「何とかなる」は通用しなくなる。
守るものができると、人は自由より安定を選ぶ。
それは弱くなったからではなく、責任が増えたからだ。
フリーランスという仕事は自由だ。
働く時間も場所も選べる。
嫌な仕事は断ることもできる。
その代わり、何が起きても全部自分で引き受ける。
案件がなくなっても自分。
病気になっても自分。
景気が悪くなっても自分。
最近ならAIで単価が下がっても自分。
自由というより、保証がないと言った方が正確かもしれない。
だから年齢を重ねると、会社員へ戻る人が増えていく。
若い頃は自由が魅力だった。
でも体調や家族のことを考えるようになると、安定の価値が急に大きく見えてくる。
翻って自分のことを考える。
私は子供がいない。
そして配偶者も働いている。
だから今でもフリーランスを続けられている部分は、間違いなくある。
もし子供がいて、家族全員の生活が自分一人の収入にかかっていたら。
たぶん、とっくに会社員になっていただろう。
「自由だから。」
そんな理由で家族を不安定な生活に巻き込むほど、私は格好つけではない。
だから会社員に戻った人を見ても、「負けた」とは思わない。
人生で何を優先するかが変わっただけだ。
そして私も、能力だけでここまで続けてきたわけではない。
健康だったこと。
家庭環境に恵まれていたこと。
そういう運にも助けられてきた。
フリーランスは、実力だけで続けられるほど単純な世界ではない。
自由というのは、自分一人の力で手に入れるものではなく、周囲の環境に支えられて初めて成立するものなのだと思う。